子どもが小さい頃は、自分の場所なんて考える余裕もありませんでした。
気づいたのは、子どもが少し手を離れてからです。10歳を過ぎるころには、子どもには子どもの世界ができて、親と一緒にいる時間が自然と減っていく。そうなってはじめて思うようになりました。自分だけの、好きにできる空間が欲しいな、と。
我が家が家を建てたのは、ちょうどそんな頃でした。だからこそそ、家族全員に個室を作ることにしました。
「夫の書斎」と「妻の家事室」、なんか違わない?
男女平等、と言葉では言うけれど、実際のところ家事の負担は妻に偏りがちです。
共働きでも、パートでも、家にいても。
外での立場がどうあれ、家に帰れば家事は妻がやって当たり前、という空気はまだまだ根強い。
その「当たり前」が、間取りにまで反映されているとしたら?
間取りの雑誌や住宅展示場でよく見かける組み合わせがあります。
「夫の書斎」と「妻の家事室」。
書斎って、趣味を楽しんだり、ひとりでぼーっとしたりするための空間ですよね。
じゃあ家事室は?
洗濯物をたたんで、アイロンをかけて、収納を整える。
作業する場所です。
夫には「くつろぐ部屋」、妻には「働く部屋」。
なんか違わない? と思ってしまいました。
外で働いていても、家にいても、女性は家に帰ったら家事が待っています。
仕事終わりに夕食の準備、洗濯、片付け。
体も頭もくたびれているのに、腰を下ろせる場所がない。
夫には書斎がある。
仕事が終わったら自分の部屋に引っ込んで、好きなことをして過ごせる。
それ自体を責めたいわけじゃないけれど、じゃあ妻の「オフになれる場所」はどこ? と思うんです。
在宅ワーク用の書斎ならわかります。
家事効率を上げるための家事室もわかる。
でも「夫は書斎で趣味、妻は家事室で家事」という前提が間取りの段階から組み込まれているとしたら、それは立ち止まって考えてみる価値があります。
友人が来るたびに言われること
友人が遊びに来るたびに必ず言われます。
「自分の部屋いいなぁ」「私も1人で寝たい」って。
フルタイムで働いている友人も、パートの友人も、家にいる友人も、みんな同じことを言う。
立場は違っても、言葉は同じです。
中には、子ども部屋で子どもと一緒に寝ている友人もいます。
夫婦の寝室は夫がひとりで使っている状態。
それがずっと続いていたけれど、子どもが思春期になって「もう一緒に寝るのは限界」となり、じゃあ私はどこで寝ればいいの? と途方に暮れていました。
寝る場所すら、自分では決められない。
個室がないと、こうしたことが普通に起こり得ます。
1人で寝たいと思う理由、思い当たりませんか?
- パートナーのいびきやにおいが気になる
- 照明を自分のタイミングで消せない
- 布団の中でスマホを使いにくい
- 自分好みのインテリアにできない
- そもそも1人になれる空間がない
どれも小さなことに見えて、毎日積み重なるとゆっくり効いてきます。
ずっとそういう不満を抱えたまま「賃貸だからしょうがない」と思ってきたけれど、家を建てるなら話は別です。
だから我が家は、家族全員に個室を作りました。
誰にも気を使わず横になれる部屋は、思っている以上に大事でした。

定年後、この問題はもっと大きくなる
そしてこの話には、もう少し先があります。
夫が定年退職すると、それまで自分のペースで動けていた家に、夫が24時間いるようになります。
「やっと自分の時間」と思った矢先に、です。
朝食が終わればリビングに夫、昼になっても夫、夕方になってもまだ夫。
逃げ場がどこにもない。
「主人在宅ストレス症候群」という言葉があるくらい、これは多くの妻にとってリアルな問題です。
実際、数字にも表れています。
第一生命経済研究所の調査では、配偶者に不満があると答えたのは男性45%に対して女性は66%と、20ポイント以上の差がありました。
そして「配偶者と一緒にいると心が安らぐ」と答えたのは男性が約9割なのに対し、女性は約7割。
60代女性に限ると、「あまり安らぎを持てない」という回答が最も多い結果になっています。
夫は妻といると安らぐ。
でも妻は必ずしもそうではない。
この非対称性は、定年後に一気に表面化します。
間取りは、老後の夫婦関係まで決めている
個室なんて、広い家じゃないと無理と思うかもしれません。
でも我が家は27坪、3人家族の3LDKです。
決して大きい家ではありません。
大事なのは広さじゃなくて、独立した空間であること。
扉を閉めれば自分だけの場所になる、それだけで十分です。
「夫の趣味部屋」を作るなら、「妻がくつろぐ部屋」もセットで考えてみてください。
家事をこなす部屋ではなく、ただオフになれる場所。
子どもが小さいうちは気づきにくいけれど、10年・20年経って少しずつ実感してくるのが間取りです。
家を建てるのは今でも、暮らすのはこれから何十年も先の自分たちです。
老後に「逃げ場がある家」か「逃げ場がない家」か、その分岐点は意外と、今の間取り選びの中にあると思っています。
まとめ
間取りは、ただの設計図ではありません。
誰に「くつろぐ場所」を与え、誰に「働く場所」を与えるか――そんな価値観が、気づかないうちに反映されています。
妻にも、ただオフになれる部屋を。
家事をする場所ではなく、扉を閉めれば誰にも気を使わなくていい、自分だけの空間を。
子育て中は見えにくくても、10年・20年と時間が経てば、その影響は確実に積み重なってきます。
定年後の夫婦関係にまで及ぶとなれば、なおさら今のうちに考えておきたいことです。
「老後に逃げ場がある家か、ない家か」。
その分岐点は、今の間取り選びの中にもう始まっています。
